ドライアイ最大の原因は涙の油不足 脂質異常なら注意

ドライアイの要因の1つに「涙の油不足」も指摘されている。写真はイメージ=PIXTA
ドライアイの要因の1つに「涙の油不足」も指摘されている。写真はイメージ=PIXTA

まぶたが重い、起床時に目がゴロゴロする、コンタクトを入れづらくなった。そんな人はまぶたの裏側にあり脂質を分泌するマイボーム腺の働きが低下した「マイボーム腺機能不全」かもしれない。近年明らかになってきた症状で、ドライアイの約9割を占めるという。食生活とも関係が深く、血液中の中性脂肪が基準より多いなどの脂質異常症の人では3倍も発症リスクが高いことがわかった。放置すると目の不快症状が強くなり、細菌感染しやすくなる。特徴的な症状や、新たに始まった点眼治療、有効なセルフケアを解説する。

 

ほとんどのドライアイ患者は涙の油分が不足

目を乾燥や細菌感染などから守る涙は油層、水層、ムチン層の3層で形成されている。ムチン層は涙を角膜の表面にとどめて安定化させる。その上にある水層は角膜を乾燥から守り、感染防御の働きも担う。最も外側にあるのが油層で、まぶたの裏側のマイボーム腺から分泌された脂質でつくられ、涙の蒸発を抑えたり、潤滑液として角膜をまぶたの摩擦から守ったりしている。

「ドライアイの86%はマイボーム腺が機能低下することによって起こることがわかった」と話すのは、伊藤医院(さいたま市)副院長の有田玲子医師。米国の研究で、ドライアイ患者159人を対象に、涙の表面を覆う油の不足により涙液の蒸発が亢進(こうしん)した「油不足」か、涙液が減少した「水不足」かを調べた結果、ドライアイ患者の86%に油不足があったという[注1]。

「涙の水分が足りなくなっても油分が足りなくなってもドライアイ症状は起こる。油が涙のうち占める割合は1%とわずかだが、この油層がなくなったり質が低下したりすると涙は数秒で蒸発してしまい、目の不快症状が起こるようになる。油層の元になる脂質を分泌するマイボーム腺の出口に油が詰まって油が分泌されなくなることや、マイボーム腺自体が消失してしまうのがマイボーム腺機能不全という疾患。目の不快感や乾燥感が生じる」(有田医師)

[注1]Cornea. 2012 May;31(5):472-8.

 

マイボーム腺はまぶたの内側にあり、上まぶたに25~30本、下まぶたに20~25本存在する。出口はまつげの内側にあり、瞬きするたびに油が出て、涙の表面に行き渡り、涙の成分を安定化させる。この働きが低下する症状が「マイボーム腺機能不全」だ。

有田医師によると、「まぶたに炎症が起こる眼瞼炎(がんけんえん)という病名で知られてきたが、1980年に、涙の成分を補っても痛くてコンタクトレンズが入れられない患者にマイボーム腺異常があることを米国のコーブ博士らが発見、マイボーム腺機能不全と呼ばれるようになった」という。

とはいえ、当時は水分不足によるドライアイ治療に注目が集まっており、「たった1%の油の不足」の影響は過小評価されていたという。しかし、2008年に有田医師らが赤外線カメラによってマイボーム腺を観察する装置「マイボグラフィー」を開発。簡易で痛みのない診断が可能になったことから、世界的にもこの病気の認知度が高まり、国際的な診断基準ができたという。なお、この検査法を取り入れている全国の眼科医はLIME研究会のウェブサイトから確認できる(http://www.lime.jp/public/search/)。

 

「朝、目が開けづらい」「涙目」が特徴

マイボーム腺機能不全になると、どのような症状が出るのか。「目の不快症状が朝一番に強くなる。また、涙目になったり、実際はさほど出ていなくても涙が出ている感じがしたりする、というのが、ただのドライアイとは異なる特徴的な症状」(有田医師)だという。

それぞれの原因について有田医師はこう話す。「脂質の分泌には日内変動がないので、夜寝ている間も出続ける。そのため、睡眠中にたまった油が酸化することで朝一番にまぶたのすべりが悪くなり、目が開きにくい、ゴロゴロする、ねばねばする、目やにがでる感じがする、という症状が強くなる」。涙目になるのは、「涙がうまく角膜を覆えていないことを脳が感知し、補おうとして涙を多く分泌する一方、油層がないことによって水分の押さえが利かず、目のきわから涙がもれ出すため」だという。

<マイボーム腺機能不全の症状チェックリスト>
※上2つの項目は特に重要
朝、目が開けにくい
涙目になり、涙が出ているような気がする(流涙感)
□まぶたが重たい、熱い
□充血しやすい
□ものもらいができやすい
□目に圧迫感がある
□目が痛い
□まつげが減ったり、目に刺さったりしやすい

有田医師らはドライアイとマイボーム腺機能不全の有病率やリスク因子について詳しく調べるため、17年に長崎県平戸市度島において疫学調査を行った。その結果、対象者全体の32.9%がマイボーム腺機能不全と診断され、年齢とともに有病率が高くなることがわかった。また、女性よりも男性の有病率が高かった。「この調査で参加者の3割強を占めていたということは、国内では3000万人以上の患者がいる可能性がある。マイボーム腺機能不全の半分は不調に気づいていないため、予備軍はもっと多い可能性も考えられる」(有田医師)

長崎県平戸市度島で6歳から96歳の住民356人男女を対象とした疫学調査。目の症状や疾患、ライフスタイルについて調査し、ドライアイおよびマイボーム腺機能不全の診断を行った。年齢と性別で見ると、男性のほうが女性よりも有病率が高く、加齢とともに男女とも有病率が上がった。(データ:Am J Ophthalmol. 2019 Nov;207:410-418.)

同研究では、「脂質異常症の治療薬をのんでいる人」で、マイボーム腺機能不全のリスクが3.2倍高くなることもわかった。

「マイボーム腺機能不全と診断される人の中でも、脂質異常症の人は、そうでない人より自覚症状がない場合が多く、こんなに腺が詰まっているのになぜ、と驚く例が多い。魚か肉のどちらが好きかと質問すると、共通して肉が好き、特にこってりした豚バラが好きと答える人が続出した」と有田医師。

 

マイボーム腺の中を流れる油は当然ながら、食事でとった脂質の影響を受ける。脂っこい肉料理が好きな人は今、症状がなくてもマイボーム腺が詰まっているかもしれない。以下に、マイボーム腺機能不全のリスクが高い人を、有田医師に挙げてもらった。

<こんな人はマイボーム腺機能不全になりやすい>
●アイメイクをする(マイボーム腺の出口を塞いでいる)
●コンタクトレンズをしている(まぶたとの摩擦でマイボーム腺が外傷を受ける)
●スマートフォンの長時間使用(瞬きが減ることにより脳からの脂質分泌指令が低下)
●一重まぶた(まぶたの圧迫が強くなり、マイボーム腺が減弱しやすい)
●脂質異常(体内の脂質の粘性が高まり、固まりやすく、特に冬は詰まりやすくなる)
●冷え症(末梢(まっしょう)の血液循環が悪いと、脂質が詰まりやすくなる。実際に、有田医師のサンプル調査によると、患者のまぶたの表面温度は正常な人より約2℃低かった)[注2]
●AGA 男性型脱毛症(男性ホルモンが関わる)

マイボーム腺が詰まって炎症が起きると、ものもらいの一種である「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」になることも。「できものを手術で摘出するとその部分の腺がなくなってしまう。なるべく切除は避けたほうがいい」(有田医師)

また、マイボーム腺機能不全では、涙がたまる角膜の下部分に傷ができるという。これは「まぶたの血管から出る炎症を引き起こす物質の量が増えて、涙に溶け込み、涙がたまる角膜下部にダメージを与えるため」(有田医師)。角膜の傷が常態化すると視機能にも影響が出るので注意が必要だ。

[注2]JAMA Ophthalmol. 2013 Jun;131(6):818-9.

 

治療薬が登場 まぶたを温めるなども効果的

マイボーム腺機能不全で腺の数が減ったり消失したりすると、再生は困難だという。

「症状が悪化した人は、目のつらさを訴えるとともに、確実にQOL(生活の質)が下がる。早期発見し治療を開始し、症状が進まないようにすることがとても重要」(有田医師)だ。

これまでは、温める、詰まった腺を器具ではさんで物理的に油を出す、といった治療がメインだったが、19年9月に「眼瞼炎」の保険適用で「アジスロマイシン点眼薬」が登場。「アジスロマイシン点眼薬は、マイボーム腺機能不全が局所的に起こった眼瞼炎や麦粒腫(ばくりゅうしゅ)などに効果を示す抗菌薬だが、それだけでなく抗炎症作用やマイボーム腺の油の分泌を促進する作用がある。成分がまぶたに長く留まるという特徴もあり[注3]、海外ではマイボーム腺機能不全に有効という論文が多く出ている」(有田医師)という。

[注3]JAMA Ophthalmol. 2014 Feb;132(2):226-8.

 

マイボーム腺の出口を清潔に保ち、脂質を固まりにくくするセルフケアも日常的に実践したい。

(1)温める

まぶた全体を温め、マイボーム腺に詰まった脂質を溶けやすく、分泌しやすくする。

タオルを水で濡らし、よく絞り、電子レンジ(500Wで30秒)で温める。ビニール袋やラップで包んでまぶたにのせ、目を温める。冷たくなる前に終了。「適温はやや熱いと感じる40℃。理想は1回5分を1日2回。忙しい場合は夜のみでもいい。蒸しタオルだと、蒸気によってまぶたがぬれ、乾くときに気化熱によって温められた脂質が冷やされるので、ビニール袋やラップで覆うこと」(有田医師)。目にアレルギー症状や結膜炎などの炎症がある場合は、温めない。

(2)洗ってまつげの根元を清潔にし、マッサージ

汚れがたまりやすいまつげの根元を意識してマッサージするように洗うことで、まつげやまぶたを清潔に保ち、マイボーム腺の詰まりを解消できる。

洗顔料を手にとり、目を閉じ、上下のまぶたからまつげの根元にかけて指の腹でくるくると円を描くように優しくマッサージする。指を横に動かし、まつげの間の汚れもとる。眼科や薬局で扱っているまつげや目元専用のシャンプーは、目に染みないよう作られている。

(3)食生活を改善

マイボーム腺を温め、出口を清潔にしても、体に入れる脂質が変わらなければ再発してしまう。肉料理よりも、魚を食べる頻度を増やそう。「青魚に豊富に含まれるn-3系脂肪酸は、脂質異常を改善する効果が確認されている。高脂血症治療のための魚油の薬を処方しているが、3カ月ほどで目の症状が改善する例が多い」(有田医師)。

「症状がある人はこれらのセルフケアによって明らかに不快症状が改善する。また、症状がない人も、予防のために、毎日の歯磨きと同じように習慣にしてほしい」(有田医師)。

(ライター 柳本操、イラスト 三弓素青)

 

引用: https://style.nikkei.com/article/DGXMZO52938400U9A201C1000000/?page=3

ウェルエイジング 目の健康を守る

 

Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です