世界で懸念広がる“〇〇パンデミック”を防げ

 

昨今、新型コロナウイルス感染拡大についての情報を毎日のようにニュースで見かけます。
そんな中、目に関してはあることが将来的に「パンデミック」なる可能性があると言われています。

それでは、記事を見ていきましょう。

世界で懸念広がる“近視パンデミック”を防げ

いま、世界中で「近視の激増」に対する懸念が広がっていることをご存じだろうか。〝近視パンデミック″とも呼ばれるこの問題で、オーストラリアの視覚研究所は、2010年に約20憶人だった近視人口が、2050年には世界人口の約半分の50憶人になると予測している。しかも、そのうちの9億3800万人は失明リスクのある強度近視になるとの推計だ。

日本も例外ではなく、視力の悪い子が増加している。19年度の「学校保健統計調査」(文部科学省)によると、裸眼視力1.0未満の割合は小学生が34.57%、中学生が57.47%、高校生が67.64%、小中高の全てで過去最高を記録した。

医療の現場では長らく、近視は仕方がない、眼鏡で矯正すればいいとの考え方が主流だった。だが、大人になったら進行が止まると考えられていた近視が、成人しても進行するケースが明らかになってきていることから、近視予防や治療の研究に力が入るようになってきた。

その結果、近視の進行を抑制する効果で注目を集めているのが、太陽光に含まれる可視光線の「バイオレットライト」だ。バイオレットライトの近視抑制効果に関する研究で18年には米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)の最優秀賞(Grand Prize)を受賞した慶應義塾大学医学部眼科学教室専任講師の鳥居秀成医師に、バイオレットライトと近視予防・治療について聞いた。

1日2時間以上屋外活動をすると近視の進行が抑制

 「近視の急増が問題になり、世界中の近視研究者の共通の認識になりつつあるのは、1日2時間以上屋外で過ごす子には近視が少ないという事実です。近視の原因は遺伝因子と環境因子がありますが、両親が近視でも屋外にいる時間が長ければ、近視になるリスクは抑えられるということが過去の研究成果からわかっています。そこで、屋外活動の何が近視の抑制につながるのかを研究するうちに可能性があるものとして候補にあがってきたのが、紫色の可視光であるバイオレットライトの効用です」と鳥居医師は指摘する。

バイオレットライトは、波長360~400nm(ナノメーター)の光。通常、可視光下限は360nmと定義されるためバイオレットライトは可視光に属し、実際に紫色に見える。ちなみに、紫外線(UV)は目に見えない光なので、バイオレットライトとは異なる。混同しないようにしたい。

鳥居医師ら慶應義塾大学医学部眼科学教室の研究グループが、近視を誘導したヒヨコを用いた研究*1では、バイオレットライトを当てた群で、有意に近視の進行が抑えられた。また、13~18歳を対象にした臨床研究*1でも、バイオレットライトを通すコンタクトレンズを使用した群の近視の進行度は、バイオレットライトを通さないコンタクトレンズを使用した群より抑えられたことが確認されている。

東京の中学生の15%が強度近視

 そもそも、近視とはどんな状態なのだろうか。

 「1.0未満なら近視と思っている人は多いようですが、実は視力だけでは近視かどうかは分かりません。1.0未満は近視だけが原因なのではなく、遠視や乱視など近視以外が原因の人もいます。近視の原因もいくつがありますが、最も多いのは、角膜から網膜までの長さである『眼軸長(がんじくちょう)』が長いことです。日本人の平均的な眼軸長は23~24㎜程度といわれますが、眼軸長がそれより長くなることにより、網膜の手前で像が結ばれ、遠くのものがぼやけて見えにくくなるのです」と鳥居医師は説明する。

通常の学校健診では眼軸長を測らず、ランドルト環と呼ばれるアルファベッドの「C」に似た環がどの方向に切れ目があるかで視力を測定している。しかし、本当に近視かどうかを調べるには、眼全体の屈折度(屈折値)をみる必要があるのだという。

 慶應大医学部眼科学教室のグループが、東京都内の小中学生約1400人の目の眼軸長と屈折値を測定したところ、なんと、小学生の76.5%、中学生の94.9%が近視だった。しかも、小学生の4.0%、中学生の15.2%が、強度近視(眼軸長26㎜以上)だった*2

 「目が悪くてもメガネやコンタクトレズで矯正すれば良いと思っている人は多いかもしれませんが、近視が進んだ結果、強度近視になると、緑内障や黄斑変性にも罹りやすくなり、将来失明につながる可能性があります。以前は、成人以降は近視が進まないと考えられていましたが、強度近視の人は大人になっても眼軸長が伸び続け、近視が進むことが近年分かってきました。東京の1中学校の例ではありますが約15%もの子がすでに眼軸長が26㎜以上の強度近視というのは深刻な事態で、早急に対策を進める必要があります」と鳥居医師。

既存のガラスやメガネは紫外線と共にバイオレットライトを遮断

 鳥居医師が、すぐにできる近視対策としてまず薦めるのは、皮膚の紫外線対策や夏場の熱中症対策などをしながら、1日2時間以上太陽光の下、屋外活動をしてバイオレットライトを浴びる方法だ。

 ただし、チェックポイントがある。ガラスやメガネのレンズ越しの太陽光では、バイオレットライトの多くが遮断されてしまうことがわかっているのだ。

 慶應大医学部眼科学教室の研究グループは、車内、病院内、オフィス内などで測定した結果、既存のガラスは紫外線と共にバイオレットライトを遮断してしまい、屋内では窓側に座っていてもバイオレットライトを浴びられない可能性があることを確認している。

 「新型コロナウイルスの感染予防のために室内にいる時間が長くなり、今以上に近視になる子や強度近視に進行する人が増えるのではないかと危惧しています。本来なら、1日2時間以上は外に出て散歩や運動をしたほうがよいのですが、自粛制限があるなどでそれが難しい間は、窓を開けて、できるだけバイオレットライトが室内に入るようにすると換気も兼ねるので一石二鳥だと思います」と鳥居医師は話す。

 シンガポールや中国、台湾では、政府が近視予防のために子どもの外遊びを促進する政策を進めている。日本はこれらの国や地域と同様に近視の子どもが多いにもかかわらず、その対策は遅れている。

バイオレットライト選択透過メガネの登場とクロセチン

 ただ、前述したとおり、メガネをかけたまま外に出ても、バイオレットライトは目に当たりにくく、近視の抑制効果は期待しにくい。最近のメガネの多くは紫外線カット効果があるレンズを使っており、紫外線に隣接するバイオレットライトも紫外線と一緒に遮断されてしまうからだ。かといってメガネをかけずに外で活動し、網膜にぼけた像ばかり映し出される状態が長くなると、近視が進む可能性もある。

 こうした状況の中、バイオレットライトに着目し、近視予防を目ざした商品の開発が進んでいる。

 一つは、目に有害な紫外線と短波長ブルーライトはカットし、バイオレットライトを取り込めるバイオレットライト選択透過のメガネレンズ「JINS VIOLET+(ジンズバイオレットプラス)」だ。ジンズホールディングス(JINS)が開発した。

また、慶應義大医学部発ベンチャーの坪田ラボ(代表取締役:坪田一男・慶應大医学部眼科学教室教授)はJINSと共同で、バイオレットライトを用いた近視進行抑制メガネ型医療機器の開発も進めている。なお、市場に出ているコンタクトレンズの中には、バイオレットライトを通すものもあるが、UVカットをうたった製品はバイオレットライトが遮断される可能性があるという。

 食品成分でも研究が進んでいる。近視抑制成分として期待をされているのが、サフランやクチナシの実に含まれる天然色素の「クロセチン」だ。

 「ヒヨコを用いた研究で、バイオレットライトを目に当てるとどんな遺伝子の発現が上がるのかを調べたところ、近視進行抑制遺伝子であるEGR1の関与が示唆されました。そこで我々のグループは、屋外に出られない環境下で少しでも近視進行を抑制できる方法を探るため、光に当たらなくても食品でEGR1の発現を上げられないかと考え、様々な天然化合物をスクリーニングしてみた結果、EGR1を活性化する作用が強いことが分かったのがクロセチンでした」と鳥居医師は解説する。

 その後、慶應大医学部眼科学教室、大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室、ロート製薬らの共同研究グループがクロセチンを投与するランダム化比較試験を行った。小学生69人を対象に行った研究*3で、クロセチン7.5㎎が入ったカプセルを毎日服用した群は、クロセチンが含まれないプラセボカプセルを服用した群と比べて、眼軸長の伸びが6カ月間で14%抑えられた。

 近視の人では網膜の外側にある脈絡膜と呼ばれる膜が薄くなることが知られているが、小学生を対象にした研究では、クロセチンを服用した群で、脈絡膜が薄くなるのも抑えられた。

 ロート製薬はこのクロセチンに着目し、子どもむけサプリメント「クリアビジョンジュニアEX」などを上市している。

近視進行を抑制するオルソケラトロジー

 近視の治療法にはどのような選択肢があるのか。現在、子どもの近視の治療では低濃度アトロピン点眼薬が注目されている。これは、0.01%に薄めたアトロピンを就寝前に1日1回点眼する方法だ。しかし、最近の研究によると、0.01%アトロピン点眼の近視進行抑制効果は従来期待されていたほどではない可能性(1年間の使用でプラセボ群と眼軸長伸長量で有意差なし)が報告*4されており、さらなる研究結果が待たれる。

また、特殊なハードコンタクトレンズを就寝中に装着して角膜の形状を矯正するオルソケラトロジーという治療法もある。朝に外し、夜に装着するという通常のコンタクトレンズとは昼夜逆の使用法だ。「専門医の診断で適応になった人で、かつ正しい使用法下であれば、オルソケラトロジーをすることで、ほとんどの方は日中裸眼で遠くが見えるようになります。さらに、眼軸長伸長も抑えられることが明らかとなり、オルソケラトロジーを希望する小中学生が増えています。しかし、通常のコンタクトレンズ使用と同様に感染には注意が必要です」(鳥居医師)

 ただ、低濃度アトロピン、オルソケラトロジーは、日本では健康保険が使えず自費診療だ。医療機関によって異なるが、低濃度アトロピン点眼薬は月数千円、オルソケラトロジーは10万~20万円の費用がかる。いずれにしても、近視の治療はまだ日本では保険が適用される段階には至っていない。

ゲーム機やスマホからバイオレットライトが出るような製品への期待

 鳥居医師が近視研究に取り組んだきっかけは、中学生時代の冬休みに、1週間、一切屋外活動をせず、部屋にとじこもってパソコンのゲームにのめり込んだら、急激に視力が低下した経験があるからという。これほど短期間に近視が悪化することもあるという自分自身の体験から、鳥居医師は「屋外に出れば近視進行抑制になるということが明らかになっている現代、太陽光を有効に使うべきだと思います。外出自粛期間が終わり外出が問題なくなれば、これまで通り子供たちは元気よく外に出て太陽の下バイオレットライトを浴びよく遊び、眼軸長が伸びないようにしてほしいです」と強調する。

 同時に「今後は強度近視化をどうやって防ぐか多角的に考えると共に、安全性・有効性の試験をクリアし、これまで近視が進むと指摘されてきたゲーム機やスマートフォンなどからバイオレットライトが出て、近視の進行も防げるようなアプリや機器が広まり、近視進行で困る子供たちが少しでも減れば嬉しいです」と話す。

 冒頭でも述べたように、近視人口増加への対策は世界的な課題だ。一方で外遊びなどの屋外活動が近視の抑制にいいことが分かっていても、現代人は子どもも含めて忙しい。そのため、室内でもバイオレットライトを浴びられるような工夫など、近視の抑制や予防を見据えたサービス・製品の強化が求められている。

 

*1 EBioMedicine. 2017 Feb;15:210-219.
*2 JAMA Ophthalmology,2019 Aug 15;137(11):1233-1239.
*3 J Clin Med. 2019 Aug 7; 8(8): 1179.
*4 Ophthalmology. 2019 Jan; 126(1):113-124.

 

引用:世界で懸念広がる“〇〇パンデミック”を防げ

Beyond Health

世界人口の約半分が近視となる可能性があるとは驚きですね。今のうちから何か対策を講じる必要がありますね。