急増する子どもの「近視」…注目される最新研究「レッドライト治療法」とは何か

近視進行予防の最前線

本日は、今海外で注目を浴びつつある最新の近視治療について記事をご紹介いたします。

 

急増する子どもの「近視」…注目される最新研究「レッドライト治療法」とは何か

近視進行予防の最前線

 

“たかが近視”ではない

近視の子どもが増えている――。そんなニュースを見聞きしたことがある方も多いと思います。なぜ近視の子どもが増えているのでしょうか。どうしたら子どもの目を守ることができるのでしょうか。

その疑問を明らかとするため、現在までに蓄積したエビデンスをもとに、正しい近視進行予防対策を【「黒板が見えない…」、急増する子どもの「近視」 専門家たちが“深刻”だと語るその“ワケ”】で詳しく紹介しました。今回は、前回紹介した基本的な近視予防対策に加えて、近年得られた最新の知見を紹介したいと思います。

小さいうちに近視を発症してしまうと、進行が早いだけでなく、年をとってから、網膜剥離や緑内障といった、失明する可能性がある病気にかかりやすくなってしまいます。

そして、日本では近視の子どもが増加していることだけが問題ではありません。もっと深刻な問題は、近視になる年齢がとても低くなっていることです。年齢の低い子どもであるほど、近視の進みは早くなる傾向にあります。

実際、日本では、2020年7月に発表された「令和2年度学校保健統計調査」(文部科学省)によると、近視の子どもの割合の推定に使用される「裸眼視力が1.0未満の者」の割合は、幼稚園27.90%、小学校37.52%でした。しかし、調査が開始された昭和54年度における「裸眼視力が1.0未満の者」の割合は、幼稚園が16.47%、小学校が17.91%。幼稚園、小学校ともに、この30年でかなり増えていることがわかります。

 

――中略――

 

 

そもそも「近視」とは?

ここで、近視についておさらいしておきましょう。

眼球の前後の長さを「眼軸長」といい、正常な成人の眼軸は女性で23mm、男性で24mm程度と考えられています。眼軸の長さが正常であれば、外から入った光はちょうど網膜上でピントが合うようになっています。

しかし、眼軸が前後に長く伸びてしまうとピントが網膜より前で合ってしまい、「近くは見えるのに、遠くは見えにくい」という近視の状態になってしまいます。このように、眼球が前後に伸びすぎてしまうのが、一般的な近視のメカニズムです。

2019年に公表された日本人一般住民を対象とした久山町研究では、40-60代の日本人の眼軸長は、2005年から2017年までに急速に延長しており、 これに伴い近視性黄斑症と呼ばれる、近視による眼底異常を持つ高齢の患者さんの割合が急速に増加していることがわかりました。

近視性黄斑症は、高齢期に、近視に関連するさまざまな種類の眼底の病気を起こすリスクを増加させるため、長寿社会の日本において、眼軸長の延長を食い止めることは喫緊の課題です。

しかしながら日本では、文部科学省の学校保健統計調査から、今後も40-60代の眼軸長が伸び続け、目の病気を合併する高齢者が今まで以上に増加すると予測されます。

 

近視の進行を防ぐ治療の最前線

さて、ここまでは暗い話題ばかりが中心になりましたが、ここで近視進行予防治療の最新のお話を紹介したいと思います。

日本では子どもの近視進行予防治療の全てが未承認の状態ですが、海外ではさまざまなエビデンスのある近視進行予防治療が提供されるようになっています。

具体的には、薬物治療では低濃度アトロピン点眼があり、コンタクトレンズによる治療としては、オルソケラトロジーや、多焦点のソフトコンタクトレンズなどです。

さらに、これ以外の最近の話題として、近視の進行を予防できる特殊な近視眼鏡が各国で販売されています。一般的に、近視になった子どもは近視の眼鏡を装用しますが、日本で処方される一般的な近視眼鏡には、近視の進行予防効果はありません。

しかし海外で販売されている特殊なレンズデザインの近視眼鏡を装用すれば、1年目の近視進行量を6割近く予防でき、かつ2割は全く近視が進行しない状態を維持することが可能という報告が中国(香港)のチームからなされています。

眼鏡タイプの進行予防治療は、コンタクトレンズによる近視進行予防治療と異なり、簡便であり年齢の低い子どもでも実施することができます。また、感染したり目の表面に傷ができたりするリスクもはるかに少ないと予測されます。日本でも近い将来、エビデンスのあるこのような特殊な近視眼鏡が処方できるよう取り組みが開始されています。

 

レッドライト治療法とは

そして近年、近視研究者らの関心を最も集めているのが、レッドライト治療法(red light therapy)と呼ばれる治療方法です。

中国では、可視光線を用いる光治療装置が2008年から弱視治療装置として認可を受けており、中国国内の病院で使用されていました。そして2014年、偶発的に、この装置で用いられている長波長の650nmの赤色光が、過剰な眼軸延長を抑制する効果を有することが発見されました。

中国国内では、このレッドライトに対するヒトでの近視進行予防効果の報告が集積され、最近、アメリカ眼科学会雑誌に、レッドライト治療法の近視進行予防効果が発表され大きな話題になっています。

さらに長期的な検討も必要ですが、この治療で用いられる低出力の赤色光は、いわゆる可視光であり、現時点では副作用はないと報告されています。実施方法は非常に簡便で、1回3分、1日2回、可視光である650nmの赤色光を覗き込むことだけであり、自宅でも実施が可能です。

より詳細に述べますと、2021年に報告されたレッドライト治療法の大規模試験では、264人の8-13歳の近視の子どもを、レッドライト群と、(無治療の)コントロール群 に割当て比較検討を行なっています。

レッドライト治療法を実施した群は、眼軸長は無治療群よりも70%伸長が抑制され、近視の進行も77%抑制されるという高い効果でした。治療を75%以上守ってきちんと実施してくれたコンプライアンスが良好な群のみを抽出した場合、その近視進行予防効果は実に90%近いものであった、と驚くべき報告がなされています。

さらに現在、近視発症前の子供に対するレッドライトの近視発症予防効果、ほかの治療との併用効果、一度伸びた眼軸を短くできるか(近視の改善効果)などを調査する大規模な比較試験が進行しており、世界中の研究者が結果を待っているところです。

日本でも、このような有望な治療が実施できるよう、今後、レッドライト治療法の日本人での有効性が検証される研究が実施されることが期待されています。

 

引用元:急増する子どもの「近視」…注目される最新研究「レッドライト治療法」とは何か

現代ビジネス

 

医療は日進月歩。新しい治療法が次々に研究されています。
しっかりとしたエビデンスが確立されれば、近視進行抑制の治療として普及する日もそう遠くないかもしれません。