「職場で女性だけメガネ禁止」が間違っているこれだけの理由

 

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本日は、昨年末に話題になりましたこのニュースに対する記事をご紹介いたします。

眼科医からコーディネーターまで、専門家に聞いてみた

私の両親はメガネが嫌いだった。

それゆえ、娘が10歳にして近視となり、メガネが必要になったときは相当ショックだったのだろう。「せめて写真を撮るときはメガネを外すように」と、口酸っぱく言われたものだ。

まさか禁止されていたなんて……

そんな私は今、ライターとしてメガネ業界をメインに取材をしている。今ではメガネを掛けたモデルが女性ファッション誌の表紙を飾るなど、その捉えられ方は随分変わってきたように思っていた。そんななか、ふいに湧いた「特定の職場において女性がメガネを禁じられている」という話題。

契機となったのは、この記事である。

職場でメガネ禁止される女性たち。「まるでマネキン」受け付けから看護師まで
https://www.businessinsider.jp/post-201013

ここで挙げられている職業の女性たちは、自らの美意識でメガネを掛けていないのだと思っていたが、まさか禁止されていたなんて。まだまだ世間は、メガネに対して寛容ではないようだ。

禁止の理由は2種類

この話題をきっかけに、実際に職場でメガネを禁止されていたという女性に話を聞いてみた。禁止の理由には、やはり既報のとおり「安全上の理由」と「外見・イメージの問題」の2種類があった。前者は、客室乗務員や介護職だ。

あるアジア系航空会社に勤務していた女性はこう話す。

「制服着用時は、機内でなくてもメガネはNGでした。採用募集の際、視力に対しての規定条件は『矯正視力1.0以上、コンタクトのみ』と開示されていて、そこに男女の差はありません。長時間のフライトの際は仮眠を含む休憩時間があるのですが、その時はメガネの着用が許されていました」

また、介護ヘルパーの女性は、「メガネ禁止」と言われているわけではないが、「金属製のもの」「割れるもの」の着用が禁止されているため、その条件にメガネが当てはまってしまうとのこと。眼鏡店スタッフによると、着用OKの場合でも移動介助などの際に相手の肘や手がぶつかり、メガネを壊してしまったと来店する人も少なくないという。

こうした場合、安全のためにやむを得ないというのは理解できる。また、安全上の理由で禁止される場合は、その条件がある程度明確に示されており、そこに男女の差はないため、納得しやすいだろう。

ややこしいのは、外見・イメージにより禁じられている場合だ。百貨店の化粧品カウンターで美容部員として働く女性は、「メイクが見えにくいから」「鼻にメガネの跡が付くから」という理由で禁じられているという。また、この話題を受けての新聞記事には、「より良いイメージを持ってほしいから」という理由で受付の女性にメガネを禁止している企業があることも紹介されていた。たしかに「禁止されてはいないが、掛けていないほうがイメージがいいと思う」と、自らの意志でコンタクトを選択している女性も少なくない。

さらに、この話題を受けてのネット上の反応には「華やかな仕事を選んだのだから、メガネを禁止されるのは仕方がないのではないか」という意見も見受けられた。

だが、ちょっと待ってほしい。そもそもこんなにも「メガネ=イメージが悪いもの」という前提で当然のように語られていることに、私は疑問を感じる。むしろこの話は、昔から根強く残る「メガネへの偏見」こそが問題なのではないだろうか。

日本人は目が隠れるのを嫌う?

ではなぜ、こうもメガネが避けられてしまうのか。ひとつには日本人が目でのコミュニケーションを重視していることが挙げられると思われる。

中央大学文学部教授であり、心理学、顔・身体学の専門家である山口真美氏の著書「自分の顔が好きですか?」にはこんな記述がある。

〈欧米と比べると、日本人の表情は大きな動きが少ないのが特徴なのです。大きく口を開けて笑うよりも、にっこりと笑う目で、感情を伝え合う傾向があるのです。

それに従うように、日本人が表情を見るときの視線の行く先は、目に集中します。それはまるで、目で示された小さな変化を一生懸命検出しようとしているように思えます〉(山口真美『自分の顔が好きですか? 「顔」の心理学』岩波ジュニア新書 2016 P.98)

接客業など、とくにイメージを重視する職業においてメガネを避けがちなのは、こうした理由と無関係ではなさそうだ。

また、働く女性に限らず、「女性がメガネを掛けると三文安くなる」「メガネを掛けていると結婚できなくなる」と当たり前のように言われていた時代もあったという。

ある眼鏡店経営者によると、「女性が近視だと、子どもにそれが遺伝すると考えていた人も少なくなかった」というから、近視への偏見ともとれるかもしれない。近視にはある程度遺伝的要素があったとしても、“母親の近視”だけを遺伝の要因とするのはナンセンスだ。ただ、こうした言説がまかり通っていたのならば、私の両親の言動は、本気で娘の将来のことを考えてのことだったのかもしれない。

コンタクトレンズの使用にトラブルはつきもの

しかし、大事なことを忘れてはいないだろうか。そもそも、メガネはイメージだけで語るべきものではない。れっきとした医療機器である。コンタクトという選択肢もあるにはあるが、体質や疾患などによりコンタクトの装用ができないという人も少なくない。

「パイロットのように“乗客の安全のため”などの理由がない限り、メガネの着用を禁止するのは眼科的に正しくない対応と思われます」

そう話すのは、東京・江戸川区にある二本松眼科病院の平松類医師だ。

「結膜炎やドライアイといった症状がある人はもちろん、そうでなくてもコンタクトレンズを使っていれば少なからずトラブルはあるものです。そのときも無理にコンタクトをすれば、感染症のリスクもあります。また、装用時間を守らず長時間コンタクトを着用すると角膜が傷つき、そこから感染につながる恐れも。角膜潰瘍という病気の原因となり、ひどくなれば入院や手術を必要とする場合もあります」

また、「近視の人であれ、遠くが見えている人であれ、45歳を超えてくると誰でも老眼になり、必ずメガネのお世話になるのが現実です」とも。近視や遠視、老眼の人にとって、メガネは必要不可欠な道具なのである。

メガネの着用を前提としたルール作りを

とはいえ、やはり職場で掛けるとなれば、シーンや服装に相応しいメガネ選びも必要となってくる。外見のイメージを重視するというのなら、単に着用NGとするのではなく、着用を前提としたうえでのドレスコードの取り決めをするのもひとつだろう。

「古くからメガネに対してマイナスイメージがあるのは、昔はあまりデザインの選択肢がなかったという時代背景もあるのかもしれません。現在、デザインはかなり多様化しています」

創業130余年という眼鏡店の老舗であり、百貨店にも売り場を展開する金鳳堂の売り場スタッフは、そう話す。同店では、職場の雰囲気や求められるイメージ等を伝えれば、それに相応しいスタイリングの提案を受けることができる。

「職場の雰囲気により華美なデザインを控えたいという方には、肌に乗せた際に目立たない色やフチのないデザイン、細身のメタルフレームなどを提案しています。また、パーソナルカラー診断の結果から、自分の肌に相性が良さそうな色を選ぶのもひとつでしょう」

ネット上では“着物にはメガネが似合わない”との理由で着用を禁じられた飲食店についても話題になっていたが、「着物にメガネがNGというマナーは聞いたことがありません。現に、同じ百貨店内の着物売り場ではスタッフの方がメガネを着用しています。フォーマルなシーンでお使いの場合シンプルな金枠等をお薦めしていますが、紬やウール等のカジュアルな和装、レトロモダン系の着物なら、主張の強いメガネを合わせてもお洒落だと思います」と話す。

メガネが悪目立ちしてしまうのは、デザインだけに要因があるわけでなく、自分に合っていないサイズを選んでしまっているという場合もある。また、ズリ落ちているとだらしなく見えるので、お店でこまめに調整してもらうといいだろう。

その苦悩は母になっても続き、やがて連鎖する

今回の件で、まだまだメガネへの偏見が根深いことが浮き彫りになった。これをきっかけにメガネ禁止であった職場が着用OKになったとしても、偏見が残っている限りは無理にでもコンタクトを選択するという人も多いだろう。

「メガネを掛けていると冷たく見える」

「メガネを掛けていないほうが素敵に見えるのに」

わりと当たり前に言われるそんなひと言が、ときには相手の眼の健康を害してしまう可能性もある。

「メガネを掛けているとイメージが悪い」と言われ続けた女性が、母親になり、子どもにメガネが必要だと言われたら、最初素直に受け入れられないのも当然だ。その事実にショックを受け、眼科や眼鏡店で泣いてしまう母親もいると聞くと、本当にいたたまれない気持ちになる。泣いている母の姿を見たら、子どもはどう思うだろうか。

2019年度学校保健統計調査では、裸眼視力が1.0未満の中学生は57.47%、高校生は67.64%という結果が出ている。これからますます多くの人がメガネを必要とすることは明らかだ。もっと多くの人が、メガネを気兼ねなく、前向きな気持ちで掛けられる世のなかになってほしいと切に願う。

 

引用: 「職場で女性だけメガネ禁止」が間違っているこれだけの理由

文春オンライン

 

 

古くからの風潮が未だに残っているところも見られるようです。
時代の変化とともにそのような風潮はなくなり、多様性が認められる社会になりつつあると思います。