「ブルーライトって目にどのくらい悪い?」に、専門医が「とにかく野菜を食べて」と答える理由

放置すれば失明する――。

「黄斑変性」という病気をご存じだろうか。最初は「モノが歪んで見える」「視野の一部が見えなくなる」という症状から始まって、次第に悪化し、最後には視力がなくなってしまう。

そんな恐ろしい病気の予防に、ある“野菜”に含まれる成分が効果を発揮することが、世界的な研究で認められている。

いまこの記事を、パソコンで読んでいる人もスマホで読んでいる人も、決して他人事ではない黄斑変性。しかし、これを読み終える頃にはあら不思議。なぜか野菜が食べたくなって、スーパーの野菜売り場に走るか、近所のコンビニで野菜ジュースを買って、家に帰るのももどかしく、お店の前で立ち飲みしてしまうことでしょう。

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「黄斑変性」は失明原因の第4位にランクイン

まずは今回のテーマである「黄斑変性」という病気について説明する。

眼球の一番奥にあって、角膜と水晶体を通して入ってきた光を受けるのが、カメラでいうフィルムの役割を担っている「網膜」。この網膜の中心にあって、視力を作り出す部位が「黄斑」だ。

この黄斑の細胞が加齢などにより劣化(変性)すると、正しい画像が得られなくなる。歪んで見えたり、一部が欠損するなどの視力障害が起きる。これが黄斑変性だ。

黄斑変性の原因が「加齢」の時は「加齢黄斑変性」という。なかでも日本人に多い「滲出型加齢黄斑変性」では、黄斑の付近に新しい血管がモヤモヤッと生えてきて浮腫、つまり「むくみ」を起こす。これによってモノが見えづらくなり、悪化すると失明に至ることになる。原因は加齢ばかりではなく、最近は若い人でも光を浴びることで目の酸化が進み、加齢に似た黄斑変性を起こすことがある。

黄斑変性の原因が「加齢」の時は「加齢黄斑変性」となるが、原因は加齢ばかりではない。若い人でも紫外線などの光を浴びることで目の酸化が進むと、黄斑の付近に新しい血管がモヤモヤッと生えてきて浮腫、つまり「むくみ」を起こすのだ。これによってモノが見えづらくなり、悪化すると失明に至ることになる。現在日本での失明原因の第4位が黄斑変性。ちなみに首位は緑内障、2位は網膜色素変性、3位は糖尿病網膜症だ。

一度傷んだ黄斑は元に戻すことができない

あらゆる光は黄斑の酸化を助長するのだが、とりわけ危険なのが、先に触れたスマホやパソコンが発する「ブルーライト」なのだ。

劣化した黄斑変性をiPS細胞を使って再生させる研究が進んでいるが、そうでもしない限り一度傷んだ黄斑は元に戻すことができない。新生血管に特殊な薬物を投与し、そこに向けてレーザーを当てる「光線力学治療」や、新しい血管を作り出す「VEGF」という物質の活動を抑え込む薬を注射する「抗VEGF治療」もあるが、これらの治療は傷んだ黄斑を再生することはできない。スマホが手放せないのであれば、積極的に予防策に打って出るべきだろう。

黄斑へのダメージを軽減する「ルテイン」とは?

「医療」と「健康食品」は仲が悪い。医療者が健康食品を毛嫌いする理由は、健康食品そのものを嫌うというよりは、あたかも病気が治るかのような表現で売ろうとする一部の悪質な業者への嫌悪感がそうさせるようだ。

そんな中、医師が、というより医療界が積極的に摂取を勧めるサプリメントがある。「黄斑変性」という、放置すれば失明に至る目の病気の予防に役立つというサプリメント。その主成分は「ルテイン」という天然色素成分だ。そのメカニズムを、総合病院聖隷浜松病院眼科部長の尾花明医師に訊ねた。

「黄斑はその名の通り黄色いのですが、この黄色の正体が“黄斑色素”という色素成分。目に入ってきたブルーライトなどの光に対して、この黄斑色素が作用することで黄斑の酸化が進まないようにできているのです」

つまり、モノを見るためには光は大事だが、そのために黄斑は一定の犠牲を強いられ、そのダメージを少しでも小さくするために存在するのが黄斑色素――ということのようだ。

黄斑色素は、生まれたばかりの赤ちゃんの目にはわずかしか存在しない。母乳や食事などで少しずつ蓄えられていく。こうして、体内に黄斑色素を作っていく上で、最も重要な成分となるのがルテインなのだ。

「ルテイン」はカロテノイドの一種で、さらに1000を超える種類があり、ニンジンなどに含まれるβカロテンや、トマトに含まれるリコペンなどが有名だ。

そんな中でルテインは、体の中でも特に「目」に多く存在する色素。自然界では緑黄色野菜や卵黄などに含まれているが、とりわけ豊富に含んでいるのがホウレンソウとケールなのだ。黄斑色素にはルテインの他に「ゼアキサンチン」という色素もあって、これがルテインと一緒に働いて神経細胞を守っている。ゼアキサンチンはコーンやパプリカに多く含まれている。

「ホウレンソウなら1日当たり2/3束を食べると、必要量のルテインが摂取できます。ケールだと“青汁”が有名ですが、私が知るところでは、青汁は商品によってルテインの含有量にばらつきがある。青汁を飲んでいるから安心、とは言い切れないかもしれません」(尾花医師、以下同)

すでに黄斑変性になっている人はより効率的に

まだ黄斑変性のない人が、予防のためにホウレンソウを積極的に摂るのはいいことだ。しかし、すでに病気の兆候がある人は、より効率的にルテインを摂取する必要がある。そこでサプリメントの利用が提唱されるようになっていったのだ。

「片方の目が加齢黄斑変性でもう片方が黄斑変性の前駆病変(前段階)の人、あるいは両方の目が黄斑変性の前駆病変の人にルテインのサプリメントが有効、というエビデンス(科学的根拠)があります。ただし、すでに黄斑変性になっている人に対する治療効果という点でのエビデンスはない。だから医薬品ではなくサプリメントなのです。一応の販売基準があって、眼科クリニックでは窓口で、病院では院内の売店でのみ販売が許されている。似たような商品がドラッグストアでも売られていますが……」

繰り返すが、このサプリには治療効果は認められていない。あくまで予防が目的の商品なのだが、「すでに黄斑変性になっている人にも、理論的に考えると何らかの効果があるはず。飲んでおいて損になることはない」と尾花医師はいう。

「それより……」

と尾花医師は続ける。

「スマホで『文春オンライン』を読んでいる人が、将来の黄斑変性を予防するのであれば、サプリよりも普段の食事で野菜を摂取するほうが望ましい」

日本人の深刻な「野菜不足」をデータ化できる

日本人は「ルテインがいい」と聞くと、それだけを集中して取ろうとする。ホウレンソウばかりを毎日食べていればいずれ飽きて続かなくなる。それよりは、ホウレンソウに限定することなく、色々な野菜を積極的に食べるほうがよほど効果的。「要はバランスが大事なんです」と尾花医師は言う。

「ルテインはホウレンソウ以外にも小松菜やブロッコリーなど様々な野菜にも含まれています。日頃から野菜を食べる人は、それなりの量のルテインも摂取できているもの。でも、実際問題として、日本人の野菜不足は深刻です」

そこで尾花医師は、アメリカのベンチャー企業と共同研究を進め、ある測定器を開発した。その名も「ベジメータ」というこの機械。野菜摂取量の過不足をカロテノイドの量から簡単に測ることができるのだ。

左の中指を機械に挿入して10秒待つと、指先の皮膚カロテノイドの量が測定され、そこから全身のカロテノイドの量が数値化して表示される仕組みだ。

「986人のデータを元に設定された5段階評価の中のどこに入るかが判定される。今後はさらにデータを集めて、より詳細な判定基準を作っていく予定です」

野菜不足は、黄斑変性だけの問題ではない

このベジメータ、現在は一部の医療機関の他、スーパーの野菜売り場や健康食品店の店頭などに置かれている。尾花医師のいる聖隷浜松病院では、健診や人間ドックにもこれを取り入れ、データを元に野菜不足解消を呼び掛ける活動に力を入れている。

「野菜不足解消は、黄斑変性だけの問題ではありません。ルテインが目と脳に多く存在することは以前から分かっていましたが、最近の研究では、認知症予防など脳の機能との関係性を示す研究結果が出始めています。特に子どものルテイン摂取量を増やすと計算能力が高まる、という興味深い報告も出てきており、世界的に注目を集めています」

それを聞いた記者は、あわててベジメータを試してみた。しかし結果は予想通り、最低ランクの「E判定」。

受験生時代の模擬試験の結果を思い出して切なくなった。

この日を境に、狂ったように野菜ばかり食べています。

(長田 昭二)

引用: ブルーライトって目にどのくらい悪い?」に、専門医が「とにかく野菜を食べて」と答える理由

文春オンライン

 

野菜を食べて、眼疾患の予防。
今日から始めようと思います。