近視進行抑制に関する論文ご紹介

オルソケラトロジーが小児期の眼軸伸長に及ぼす影響に関する研究

 オルソケラトロジーとは、レンズ内面に特殊なデザインが施されたハードコンタクトレンズを計画的に装用することにより、 角膜形状を意図的に変化させて近視を矯正する手法であり、近年では夜間就寝時のみにレンズを装用するオーバーナイトオルソケラトロジーが主流となっている。

本法により十分な矯正効果が得られれば、昼間の矯正用具は不要となり裸眼での生活が可能となる。
手術の要らない新しい近視矯正法として注目され、本邦でも少しずつ普及してきている。ただし効果は恒久的ではなく、装用を中止すれば角膜形状や屈折は元の状態に戻るので、 矯正効果を維持するためには治療の継続が必要である。

  オルソケラトロジーは約50年前(1960年代)に米国で考案されたが、当時は矯正効果が弱く予測性に欠け、効果の発現にも長時間を要するため広く普及するには至らなかった。
しかし、1980年代にリバースジオメトリーレンズ(reverse geometry lens)という特殊なデザインレンズが開発されると、矯正効果や精度は飛躍的に向上し、矯正に要する時間も格段に短縮された。
さらに高酸素透過性(high Dk)のレンズ素材の登場により就寝時装用が可能となり、1990年代には再度臨床応用が進められた。

そして2002年にParagon社のCRT®レンズが初の就寝時装用オルソケラトロジーレンズとして米国食品医薬局(Food and Drug Administration:FDA)の認可を受けるに至った。
その後、複数のレンズがFDAの認可を受けており、本治療法が世界中で広まるようになったが、日本では2004年から治験が開始され、2009年4月にアルファコーポレーション社のαオルソ®-Kレンズが本邦初の「角膜矯正用コンタクトレンズ」として厚生労働省の認可を取得した。
現在まで4社のレンズが認可され、3社が製造・供給を行っている。

  この特殊レンズを装用することにより、中央部の角膜上皮の菲薄化と中間周辺部の角膜厚増加がもたらされ、その結果近視が軽減し裸眼視力の向上が得られる。
ただし、非観血的な治療であり矯正効果には限界があり強度近視には不向きである。またレンズ素材は通常のガス透過性HCLとほぼ同様であるが、就寝時に装用するためDk値100以上のものが用いられる。

  上記のメカニズムにより矯正効果が得られるわけであるが、その特徴的な角膜形状変化により眼光学系への影響は避けられない。これまでに球面収差やコマ収差の増加をもたらすことが報告されている。
そしてこれらの高次収差の増加に伴いコントラスト感度が低下することも確認された。このようにQuality of Vision(QOV)の観点からはネガティブな側面があるが、近年この特殊な光学特性が近視進行抑制の観点からはポジティブに作用することがわかってきた。

〈中略〉

  オルソケラトロジーは特徴的な角膜形状変化をもたらし、その結果裸眼視力を向上させる。これに伴い光学的質やQOVの低下ももたらすが、この特殊な光学特性の変化は、学童期の近視進行抑制においては大いに威力を発揮することも明らかとなってきた。

現時点で、効果や安全面、経済性、また簡便性などの条件を満たすような理想的な近視進行抑制法は存在しないが、オルソケラトロジーは裸眼視力を改善させるうえに調整や散瞳への影響がなく、アトロピンやピレンゼピンに対して大きなアドバンテージを持つ。

また、累進屈折力眼鏡や特殊非球面SCLよりも近視進行抑制効果が大きい。以上の理由から本治療はpromisingな方法であるといえ、今後、小児の近視進行抑制療法において中心的な役割を果たしていく可能性がある。

ただし、そのメカニズムはいまだ仮説に過ぎず、効果に個人差があることも否めない。今後はどのような症例でより有効なのか?より重要なファクターは何なのか?など、解明しなければならない問題がまだまだある。
今後のさらなる研究が待たれる。

引用:オルソケラトロジーが小児期の眼軸伸長に及ぼす影響に関する研究 大鹿哲郎・平岡孝浩(筑波大学)